戻る
    ―― 悪司 ――

 収容所の朝は早い。

「おう、山本、山本」

 悪司の隣りのベッドを使う山田が、まだシーツの中で丸まっている悪司を揺り起こす。

「んぁ……」

「んあじゃねぇよ、起きろって。メシ、食いっぱぐれるぞ」

「……そりゃあ…駄目だ…んっ…んんっ……」

 悪司はもそもそとシーツの中から姿を現した。
 裸の上半身には、いたるところに吸われた後がある。

「昨日も、ハードなご奉仕だったみたいだな」

「ん〜…あの、エリザベスって女、なっかなか離してくんなくてよぉ……まいっちまったぜ」

「だったらなおさら、夜の肉体労働の為にも、食えるうちに食っとかないとな。
 サドに当たったら、ワザと食わせて貰えねぇ状態にされっちまったりするからさ」

「あー…そーだな…」



 ルソンのウィミィ基地内に、捕虜収容所があった。
 ウィミィは、絶対的な女性上位の国で、上官はすべて女性。そして、その次が歩兵クラスとなるのだが、こちらも女性と男性では圧倒的に待遇の差があった。
 さらにその下が捕虜で、見栄えでランクをつけられ、そのトップクラスに入る者は、六人部屋でベッドなどが与えられる。
 その代わり、ウィミィ女性達への「奉仕」という仕事がつけ加えられていた。
 もっと大部屋の捕虜達は、様々な肉体労働(戦死した同朋の墓穴を掘る事も含む)に従事させられていた。
 悪司達は、作戦に失敗し、この収容所に送られてしまったのだ。
 今朝の食事はトマトスープに、パン、それとベーコンと卵がついていた。

「これで、捕虜の食事だってんだからさ…俺達、随分なバケモノと戦ってたんだなーって感じだよな、山本」

 配給されたトレイの上の食べ物を見て、山田がため息をついた。

「朝はカンパンと水、昼はそれに少しだけ芋がついて、夜は水だけだったもんなー」

 悪司はそう言いながら、パンを頬張る。

「……負けたのかな…俺達……」

「多分な」

「ニホンはどーなったんだろう…」

「そのうちイヤでも知る事になるって」

 悪司はスープの入った器を片手で掴むと、味噌汁を飲むようにずーっとすすった。
 それを、熱いまなざしで見つめている、現地の少女がいた。



「アクジ」

「おう、ララミ」

 捕虜の食事を作る為に、現地の娘達が借り出されていた。そのうちの一人、ララミは悪司の気まぐれで一度抱かれ、悪司の虜になってしまっていた。
 ララミは華奢で、褐色の肌がとても魅力的だ。

「これから、ドコ行く?」

「農場さ。畑を耕しに行くんだよ」

「……時間……アル?」

 ララミは潤んだ瞳で悪司を見る。

「わりぃ、まだしばらくは駄目だ」

「…………ソウ……」

「悪司っ!」

 二人の間に別の声が入った。
 でっぷりと太った、中年の女。
 この収容所所長の、カサンドラだった。

「アナタは、農場に行かなくてよろしい、アタシの部屋にいらっしゃい」

 カサンドラは舌なめずりをして、悪司を上から下まで見ると、姿を消した。

「アクジ……」

「という訳だ。ちょっといってくる」

 悪司はララミの額にキスをすると、所長室へと向かった。



「そう、そう、あ、そこ、もっと、もっと!!」

 カサンドラは下着姿になり、ぱっくりと割れた下着の向こうにある、色の変わった花弁を、もう二時間近く、悪司に舐めさせていた。

「悪司、アナタ凄いよ、こんなテクどうしたの? あ、そ、そこっ…んっ…んーー!!」

 カサンドラは自分の股間に悪司の顔をぎゅっと押しつけると、腰をぶるぶると震わせた。

「はあ…はあ……もういいわ…行きなさい」

 カサンドラは、悪司のものを自分の中に入れようとしない。悪司と同部屋の者達も、カサンドラの中に入った事がない。一説では、処女なのではないかという話もあった。

「どうも……」

 悪司はウィミィ語でそう言うと、部屋を出ようとした。
 その時。

 ぱさ…

 悪司のズボンのポケットから、お守り袋が落ちた。
 カサンドラの体液で汚れないように、悪司が大事にしまっていたものだ。

「何、それ?」

「ニホンの宗教モノですよ。見てもつまんないもんです」

 悪司はそう言って、大事そうにズボンのポケットにそれをしまった。

「随分と、丁寧に扱っているじゃない。見せてみなさい」

「書いてあるのは漢字ばかりで、ウィミィの人には何がなんやらわかりませんて」

「いいから、お見せっ!!」

 カサンドラはでっぷりとした手を悪司に勢いをつけ、伸ばした。

「おっと……」

 悪司はそれをなんなく避け、ぶっといカサンドラの唇に唇を重ね、すぐに舌をねじ込んだ。

「んんっ!!」

 口腔で、神業が披露される。

「んっ…ん、ん…んーーっ!!」

 カサンドラは悪司のキスだけで、気をやってしまった。

「そんじゃま、失礼します。まだ農場に行けば、作業に間に合う時間なんで」

 悪司は、満足そうな顔で床に倒れているカサンドラを残し、所長室を後にした。



 悪司は農作業を終え、シャワーで躰を洗っていた。女性士官達の玩具である為、小奇麗にする事も義務づけられているので、悪司達はシャワーも使い放題だった。
 悪司は特に手と舌と口を念入りに洗った。まるで、悪いものから禊をするかのように。
 そこを使っている男達は、悪司の気持ちがわかるのか、長くシャワーを使っている悪司の姿を見て見ぬふりをした。


 夜。
 悪司はそっと部屋を抜け出し、木々で影になってる小高い丘の上にいた。
 そこに寝そべり、空を見る。満点の星を見ながら、ニホンの歌を小さく口ずさむ。
 悪司はそっと懐に手を入れると、お守りを出した。
 それをいとおしそうに眺め、そして軽く口づける。

「今日も生き延びたぜ、民華さん……」

 お守りの向こうに、ニホンに残してきた愛しい女の顔を思い浮かべる。

「昨日こました女の話によると、ニホンは負けたらしい…でもって、そろそろ、俺もニホンに帰れるらしい…なんちゃら条約って奴で捕虜が大事にされるんだと……生き延びてたら、いい事のひとつもあるもんだ……ババアのアソコばっか舐めさせられてるけどよ……こんな姿、あんたには見られたくねぇなぁ…」
 悪司はそっと、お守りを胸の中に抱いた。愛しい者を優しく抱きしめるかのよ
うに。

「もうすぐ……会いに行くぜ、民華さん…」