第7回
|
ぱうぱう、でも、最初に告知しておいた方が、
視聴者さんが注目してくれると思うの。
ほら、人間、もうすぐ死ぬ人には
優しくできるものだし。
|
|
えげつない例を出すなよ。
| |
|
|
そういえば、この出場者さんたちの中にも、
死んじゃう人がいるかもしれないね。
試合は真剣勝負だもんね。
|
|
文字通りのな。
…つっても、刃物を使わない奴も多そうだが。
| |
|
|
んーとね、前評判で調べた分では、
今大会で刃物を武器にする出場者は十二人らしいよ。
|
|
半分以下だな。
多いのか少ないのか…
あと、格闘系と魔法使いはまあ、
まともな試合が期待できそうだ。
| |
|
|
クリちゃんが楽しみなのは、
ビーム系の人かな。
|
|
なんつーか…当然のように「系」でまとまってるのな。
さて、今週はどんなイロモノが出るんだか…
| |
|
|
最初にご紹介するカードは
「邪悪大帝Σ vs ハリケーン斉藤」でーす。
|
|
余は赤子の手をひねらぬ。捻じ切るまでだ。
【邪悪大帝Σ】
邪悪大帝Σは邪悪である。
彼が全宇宙の支配を目論んでから現在までに世界各地で起こった凶事のうち、彼の所業だと特定または推測される事件は、×××××××××、×××××××、「××××××××」「×××××」、×××××××××××××。(※1)
××××××××××、××××××××××××、××××××××××××××××。
×××××/××××、××××××。(※2)
※1…×××××××××××、×××××××。
※2…××××××。
更に、パートナーの少女シータは×××××××、×××××××××××。
対戦相手のみならず、観客たちも×××××、××××××××。
予選成績最下位の非注目株
【ハリケーン斉藤】
青銅の巨人ゲラーミンが去った後、硬直していた人々が自分を取り戻した頃に受付に現れたのが、彼、ハリケーン斉藤である。
フードを被ってうつむいた貧相な少年と、彼より一回り小さく、同じくうつむいている少女。
誰もが彼らに注目しておらず、居合わせた記者である私の第一印象も「迷子が道を聞きに来たのか?」というものだった。
カウンターにたどりついた彼は、職員にこう告げた。
「闘神大会…に、参加したい。名前は……ハリ……ハリケーン…さいとう。こっち、妹…の…エリアス」
無言で会釈したパートナーである妹は彼によく似ていて、その髪からは美しく研がれた砂粒が幾つか零れ落ちた。
受付の後、声を掛けると彼らは逃げてしまったが、分析の結果、彼女が落とした砂粒は砂漠のものだと判明している。
誰にも注目されておらず、何も答えてくれない彼らへの取材を単身で続ける私は間違っているだろうか?
だが、私は彼らの素性を知りたいのだ。
彼が名乗る時にちらりと見た私のバッジに書かれていた名は斉藤、恐らく私は、彼にこの街での名を与えたのだから。(TCT 斉藤嵐)
邪悪大帝Σの方、なに言ってんだああ!
ピー音取れ、モザイク外せ。
| |
|
|
ぱうぱう、
外したら番組が打ち切りになるの。
邪悪大帝Σさんの経歴はあまりにも邪悪なので、
全部伏せ字になっちゃいました。
|
|
う…
そんなに邪悪なのか。
| |
|
|
わかりやすく悪事ポイントでいうと、
3京12億4千ポイントくらいです。
ジンバブ●ドルみたいだよね。
|
|
なんだか知らんが、インフレしすぎだ。
そのうち十ケタ削る羽目になるぞ。
対するハリケーン斉藤の方は……なんだこりゃ。
この記者、自分に酔ってねぇか。
| |
|
|
でもでも、なんかミステリアス。
邪悪大帝Σさんの邪悪さに負けずに生き残ってほしいな。
勝ち進むと身の上がわかってくるのがお約束だし。
|
|
脇役未満には通用しねぇぞ、その法則…
| |
|
|
ぶー、切り裂きくんの薄情者。
それじゃ、もうちょっと紹介しがいのある人いきまーす。
次のカードは、「ボーダー・ガロア vs 黒ヒゲサミー」。
|
|
お前も薄情だっ。
| |
|
昨年度準優勝者
【ボーダー・ガロア】
各地の闘技場や挑戦の塔などで数々の記録を作ってきた屈強な戦士。
闘神大会では毎年優勝候補の一角に入っている。
彼が求めているのは勝者に与えられる名誉や富ではなく、強い者との真剣勝負。
とはいえ、毎回パートナーとして恋人を賭けての出場であり、闘神の座は悲願には違いないだろう。
以前の取材で、パートナーのレイチェル・ママレーラはこのように語っている。
「どうして毎年パートナーをしてるのかって…? そうね、もう三度目だものね。確かに、お金を払ってパートナーをしてくれる人を雇うこともできるけど…それは私がいやなの。この人が戦う時、一番近くにいるのは私。他の人には譲りたくないのよ。この人が命を賭して戦うんだもの、私だって、自分の身ぐらい賭けるわ」
なお、前回準優勝者であるボーダーには試合数を減らすシード権が認められているが、一試合でも多く楽しみたいという理由で、今年も権利を放棄するそうだ。
あぁっちのイカマンが
「ヤンキーはノーヒット」って言ってまーしたぁ〜
【黒ヒゲサミー】
移ろい易いショウビズ界で、七年前の徒花を覚えている者が何人いるだろうか?
七年前、黒ヒゲサミーはデビュー後間もなくブレイクの兆しを見せ、スターダムにのし上がろうとしているエンターテイナーだった。
「吸った息の千倍のホラを吹く」と評された軽妙なトークが人気を博し、魔法ビジョンを二時間つけて彼の姿を見ない日はないという状態が二ヵ月続いた。
だが…彼はカメラアイの前以外でも、口から出任せを吐かずにはいられなかったのだ。
某国金融長官と治安長官を同時に騙し、国家予算を横流しさせかけた詐欺事件。
百年近くになるのではないかと試算された懲役期間は、彼の巧みなトークが披露された裁判が終わった時、なぜか十五年にまで減っていた。
それから六年後、模範囚として(おそらく話術を駆使して)出所した彼は、かつて懇意だったプロデューサー陣に連絡を取るでもなく、なぜかダンジョンに向かった。
彼がダンジョン探索を繰り返す理由も、闘神大会に出場した理由も、知る者はいない。
ダンジョン内で彼を見かけた冒険者によると、彼は武器も防具も持たず、話術のみでモンスターたちと渡り合っていたという。
サミーの試合をウォッチできるラッキーなオーディエンスは耳掃除をお忘れなく。
|
クリちゃんたちも耳掃除した方がいいのかな?
クリちゃんの耳はいつでもキレイだけど、
耳かきでこしょこしょするのは気持ちいいよね。
|
|
…俺……
試合場でのボーダーは、
いっさい聞く耳持たねぇと思うんだ…
| |
|
|
ねぇねぇ切り裂きくん、
本番終わったら、
クリちゃんをこしょこしょ……ん? ん?
|
|
ん、なんだ?
| |
|
|
切り裂きくん、切り裂きくんの耳って──
|
|
また来週!
見ないと切り裂くぞ。
| |
|
|
ぱうぱう、次回、最終回でーす。
|
|